源流戦線、異状なし!

ひげオンジ

2009年07月05日 17:19

7月4日 朝五時。

 ようやく明け始めた空の下、気がつけば白のコンパクトカーの先導を受けつつ、長いトンネルを抜け、両脇を深い山々に囲まれた某国道沿いを、南へと向かい転進しているこのひげオヤジ。このような山中にまでなぜ? と問われれば、それは2週間以上前に小生の手元に届いた一通の、

 召集令状!

こそが事の発端。齢(よわい)こそ五十をすでに越えるといえども、未だ渓流釣りの領域では、

 万年二等兵・・・

な上に、すでに予備役としての軍籍も抹消されつつあった小生に飛び込んできたいきなりの出撃命令。「このような老兵にまでなぜ・・・?」といぶかりつつも開きて読めば、

 「源流戦線、異状あり。最前線にてはすでに我が軍精鋭部隊善戦すも、敵軍猛攻に一時退却の要あり。十全なる作戦遂行のために、予備役・老兵をもってして前線守備に敢闘奮戦すべし!」

とのこと。大本営発表によれば、精鋭部隊による総攻撃は2週間後。先ずはそれまでの時間稼ぎ・・・ということなのであろうが、先ずはお国の一大事。すでに腐りかけていた小生の

 釣戦士魂!にも一抹の炎が灯る。

 「うーん、こうなったらお国のため、ご恩ある大将のためにも、もう一働きせねば・・・」と夫の前途を危ぶむ奥方を慰めつつ、先ずは今作戦の参謀本部長兼、中部突撃隊総大将であるhajihadu大将!のご指示の下、どこのどこだかも判らない(本当は場所名を書きたいのだが、軍事機密ゆえ、お教えすることはできない。読者の皆様方、お許しを。)駐屯地に到着した。眠い目をこすりつつ、車より降りれば、今回の作戦遂行に駆り出されし、古参兵の強者どもが今や遅しと立ち並びつつあった。

 その顔ぶれたるや、遠く関東よりわざわざに、今回の作戦の総監督を果たすべきご長征。「貴君等の戦いぶり、しかとこの目で見届けましょうぞ・・・」とまあ、眼光鋭く睥睨(へいげい)なされるCREEK WALKERS元帥閣下をはじめ、

「いやぁ、昨日は一日、東京へ出兵で、2時間しか寝てなくて・・・」と相も変わらず人なつっこい笑顔で話されるご存じhajihadu大将

 それを聞き、「ワシもこの二日間で5時間しか寝とらんぞぉぉお!」と急遽奈良の前線から転進なされてきたというなみはやFF中将

「・・・えっ、本当に行くんですか? こんな顔ぶれで・・・」と常に冗句混じりの冷静さを保ちつつも心は熱いY.yoshi少将

という歴戦の猛将に加え、

 東部戦線において軍神として高名はせるj.bopper大佐をリーダーとし、日頃はテンカラ落下傘部隊の指揮を執るtobitani中佐、ならびにその補佐の任を任されしなお上等兵、さらには様々な兵器開発に日夜勤しみ、今や我が軍の敵捕獲網(ランディングネット)のその大半を提供するに至るメタボおやじ機関兵・・・といった関東軍のご一堂の頼もしき姿もある。

 また、他方を見れば、そのフットワークの身軽さゆえに「東海の小天狗」と異名を取るおいかわ兵曹長、さらには戦歴長く、時にフローターをも用いた水上戦の名手でもあるrelease-windknot水雷兵の姿も見えるのは、いとうれし。加えて、今回、急の病のため無念の戦線離脱を余儀なくされしyuzupapa223少佐に変わり、急遽招集を受けたのが、2週間後に迫る総攻撃の先兵を務めるべき「独立愚連隊特攻隊長」ことmassa520少尉「ふっ、今回、老兵の骨を拾うのが俺の仕事・・・」などと若気の至りか、不遜な笑みを浮かべつつも精鋭東海軍団の一翼を担うことに相成った。

 さて以上11名の(massa少尉を除く)古参兵に、このひげオヤジ万年二等兵を加え、今回編成された

 
源流シニア部隊・・・





 推定平均年齢50歳!(massa少尉は当然除外してのこと)というこの老兵部隊。出撃前から
  目は霞み、腰は痛み、歯は疼く・・・という壮烈な姿を披露しつつも、

 ワシだけは、必ず釣って生きて帰る!

という激しい闘志に身を焦がしつつあったのは、それはやはり、

 老いたりといえども、やはり釣り★鹿!

ということに他ならないのであった。

(とまぁ、参加メンバーの紹介だけで、これだけの長文になった。いったいこの先どうなってしまうのか、このブログ?)

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 さて、総勢12名の兵士、大将の号令の下、車両に分乗。一斉に前線を目指す。途中、メタボ機関長行方不明の連絡に、

 おおっ、もうすでに脱走兵が出たか!

と色めき立つも、すぐさま駆けつけしCREEK WALKERS元帥閣下の救援により、事なきを得た。

 さて1時間余りの移動の後、いよいよ武具兵糧を装備しての、

 
地獄の行軍・・・


出発直前の隊員達。まだこの時は余裕綽々・・・


が待っている。5キロ弱のコースとはいえ、そのほとんどは山道を登り続けるというこの行軍。平素職場では1Fから2Fまでの移動にも「エレベーター」を使うというこの軟弱ひげオヤジに果たして無事走破できるのか? 戦闘以前に胸に渦巻く大きな不安であったが、ここまで来たら後には引けぬ、

 「世の中には歩きすぎて死んだ奴はおらん。」


などと訳の判らないことを喚(わめ)きつつも、空元気という名の元気を振り絞っては、先ずは砂利だらけの山道を一歩一歩と踏みしめていく。行けば、途中崩落した所も散見する荒れた路をうつむきながら歩き続ければ、ふと、あの深沢七郎の名作(今はカンヌを取った今村昌平の映画の方が有名か?)




 楢山節考・・・


という言葉が頭によぎる。世が世ならおそらく「姥捨て」が行われたかもしれぬという山へ山へと歩を進めれば、迫り来る疲れと共に、ひどく気持ちが沈んでいくことを感じながら・・・、それでも、





 
青空の下の荘厳な山々




という美しい景色がこの老兵士の背中をずんずんと押してくれているのであろう。途中、二度の休憩(何といっても、参謀総長たるhajihadu大将が、連戦、ほぼ徹夜明けのせいであろうか、すぐにバテる・・・オーマイガッ!)を挟みつつ、気がつけば心の底まで透き通るような水をたたえた美しい川のほとり、今回の遊軍キャンプの地に立っていた。





 さて、ここから先は先ずは4小隊に別れての作戦行動となる。大きく縦に展開する防衛線を再上部、上部、中部、下部と分けての展開を提案される大将の案に元帥閣下も異存なく、先ずは元帥殿を先頭にjbopper大佐、tobitani中佐が意気揚々と最上部への進軍を開始。
 敵兵迫りもっとも激戦が予想される最下部には、「ほんとうに行くんですかぁ・・・?」未だにとぼけているYyoshi少将を先頭に、なみはや中将、なお上等兵という体力任せの三名が出動。
 「まぁ、ここでの作戦展開なら任せて下さい」と自信満々のmassa少尉を先導に、メタボおやじ機関兵release-windknot水雷兵が中部の守り固めに出発する。その三部隊の出撃を確認した後、

 「もうこれ以上、歩きたくないよぉ・・・」と駄々をこねるこのひげ二等兵を無視するが如く、haji大将、おいかわ兵曹長はすでに機銃ならぬロッドを片手に、軽々と戦場となる河原へと降りられていた。

 一足遅れで、河原に降り立った小生も、先行くお二人に懸命の援護射撃をと思うものの、予想以上に強く吹き下ろしてくる川風に思うように照準が定まらない。先ずは
「落ち込み手前の肩に潜む敵斥候兵を始末してから、敵小隊の陣営の奧を狙うべし。」
と大将からは攻撃に関する細かい指示を受けているが、こちらの技量不足もあり、なかなか効果的な攻撃もできぬまま、悪戦苦闘を続けた30分後。岩裏に潜むであろう敵を狙い撃った毛針弾に、

 ヒット!

すかさずロッドを立てれば流れの中でこましゃくれた抵抗を見せる雑兵であったが、メタボ機関兵よりお預かりしているバンブーロッドの前では敵ではなし。すんなり寄せれば、今先頭において敵軍となる

 ヤマトイワナ軍(らしい・・・というのが大将の見解)





に所属する15センチほどの小兵であった。小さいとは言いつつ、1尾は1尾、0尾とは無限大の差がある・・・などと上部部隊一番手柄の功名を含め、喜びに浸る間もなく、

 「どんどん行くよ、敵はまだ先にも多いんだから!」

という大将の号令一過。「はっ!」と最敬礼の後、敵兵を流れに放ち、慌てて大将、兵曹長お二人の姿を追うことに。


hajihadu大将とおいかわ兵曹長の釣り姿。
思えばこのお二人とも奇しき縁・・・

 それから以降も止まぬ風に悪戦苦闘しながら戦闘を続けていくが、キャストもままならぬ上に実戦経験豊富なお二人からは小生に向け、次々と指示、ご命令が飛んでくる。

 「ダメだぁ!そんなに前に出たら、手前の斥候が逃げて奧の本隊までが姿を隠す!」

 「もっと姿勢を下げろ!そんな高い所にいたら、敵から丸見えで間違いなく撃たれるぞ!」

 「そんなに何度も空撃ち(フォルスキャスト)するんじゃなぁい!ラインの影に驚いて敵が逃げる!」・・・etc,etc

というその厳しい叱咤の言葉はもちろんこの万年二等兵に、何とか本物の手柄を立てさせてやりたいという大将をはじめとする皆様方のご愛情の現れであることは言うまでもなく・・・。

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 さて、結局午前中は、後4度出たヒットした敵兵をことごとく逃し、1兵のみの戦果。真上に「こいつはいつ崩れてくるか判らんなぁ・・・」と思わせる「将棋くずし(山くずし)の岩」を眺めつつ、しばし戦場でのランチ。ハグハグハグと握り飯などを頬張りつつ、先ずはこの戦場での敵兵の様子や戦術等についてあれこれお話しを伺うことに。
 上記の岩の周りをはじめ、その周囲を見わたせばば、さすがに最前線。あちこち丸裸にされた山の斜面を見える。その風景からは「こんな所にまで・・・。」と、過去から現在、ただただ私利を求め争い続ける人間の業の深さが垣間見えるよう。そしてそんな中でもゲリラのごとく、しぶとく生き長らえている敵兵、ヤマトイワナ軍・・・のことが逆に不憫に思えてならなくもあった。



本当に可愛らしいイワナ達。この姿をいつまでも見ることができますように・・・。


 先ずは喉の渇きなどもしっかりと癒した後、さらに敵陣深くへと進軍していく我が部隊。午前のアドバイスが功を奏したか、10センチにも見たぬチビ敵兵を先ず一尾仕留めた後、続けて午前中に仕留めたのと同じサイズの小兵を仕留める。大したサイズではないが一応ネットを使い、写真などを撮った後、上流の方では兵曹長殿が何やら敵将校と思われる良形を仕留めた様子。「あー、いいな、いいな。」と羨ましさのあまり駆け寄った時には、まだ己が犯している過ちにも気づかぬ所が、この万年二等兵の二等兵なる所以(ゆえん)であろう。さて、それから以降は大将の真似をし極力ラインは出さず、利き手一本のショートキャストで小さな淵やら、流れの弛みをねらい撃ちしつつ進軍。途中、再度チビ兵一尾を仕留めハンドリリース。よしよし、と思いつつさらに進めば、左手岸際の少し深さのある流れから、

 バシャン!

とヒット。よし、と合わせてみるがこれもやはり20センチにも届かない小兵(結局これが今回遠征の最大のものとなった・・・・悲しい)をヒット。足元の流れに寄せてから、さぁネットに入れようといつものように背中に手を回してみれば、

 スカッ

いつもなら握りしめる右手の掌に感じるグリップの感触が届いてこない。「あれ~おかしいな・・・。」と思いつつ、何度も何度も右手で探ってみるが

 スカッ・スカッ

を繰り返すばかり。ふと腰元を見ればネットにつながっているはずのカールコードがだらりとぶらさっがたまま。

 「し、しもたぁ、ネットを置き忘れてきたぁ!」

先ほど午後の1尾目の写真撮影した際、いったんコードから外したネットをそのまま河原に捨て置いたことに今気がつく。

 あわわわわっ!

慌てふためきつつも、先ずは釣り上げた魚の写真を大慌てで撮って、すぐにリリース。



それがこの写真。慌てているから自分の影が丸映り。ああ、恥ずかしっ!


 「待っててあげるから、探しておいでよ。」と言って下さる大将に今度は置きざりにするロッドのことお願いし、兵曹長にもお付き合い頂いては、脱兎の如く下流に戻る。デジカメの記録を見れば、ほんの35分ほど前に置き忘れているはず。さほど遠い所にはないものと思いつつも、このネット、メタボ機関兵からお預かりした大切な一品。まさかこんな所で失う訳にはいかないと焦る、焦る。先ずは大汗かきつつ登ってきた渓を一目散に下っていけば、

 良かった、あったぁ!

と何とか無事ネットを確保。再び上流目がけて待ってくれているはずの大将の下へ馳せ参ずれば、今度は

 ロッドがなーい!





 「あれ、ロッドはどこでしたっけ?」とこれまた間抜けなことを大将に尋ねれば、「ほら、あそこ、あそこ!」と指さして頂いた先は後方30メートルほどの所。慌てるあまり大事なロッドを見過ごして渓を登り続けるとは、まさにこの万年二等兵、

 永遠に将校昇進への路はなし!

ということを証明する一幕なのでありました。

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 さてそれからも3名揃っての行軍は続く、途中、「いかにも!」という大場所では先行の名誉を与えられていながらも、いきなり毛針弾を後方の枝に絡め取られるという失態の末、「隻眼の敵将校(27センチ)捕縛」という手柄を兵曹長に掠め取られるなど、後半戦も尻すぼみ。何度かチビ兵たちとの遭遇もあったが捕縛には至らぬまま、今次作戦は終了となった。

 
「総員撤収!」


さらに奧に続いていく支流。この先は今後の課題か?次なる目標か?


というhaji大将のご命令の下、いったん前線を離脱し、林道から最初の野営地まで退却する。1キロあまりの下り坂をゆるゆると戻れば、すでに中部、下部の二部隊は先に撤収を完了している。聞けば、なみはや中将は敵将32センチを仕留めたとのことで、まさに意気揚々。他の隊員達も一日の戦闘を無事終えたことと、十分であったその戦果に、心地よい疲労感を感じている様子。愚にも付かぬ失敗ばかりで、味方の足を引っ張り続けたのはやはり小生一人であったかと思えば、悔しさも増すばかりだが、先ずは、


 「お命のお持ち帰りは、功名の種でございますれば・・・」

という山内一豊の妻「千代」ならぬ、我が奥方の声が耳奧にこだまする。戦果は問わず、先ずは怪我一つなく、無事に今回の任務を終えたことこそ、紛れもなく


 大戦果!

であったとして、ここは素直に素直に喜ぶべきであろう。

 さて、最後に戻ってこられた最上部部隊のお三方と合流し、再度、荒涼たる山道を行軍する。途中の山上から改めて眺めてみれば、「こんなオヤジの集団が・・・、よくまぁ、こんな所まで登ってきたもんだ・・・。」とつくづく我等がシニア部隊の底力に三嘆の念を禁じ得ない。これだけのパワーと執念ある一団がいる限り、

 まだまだこの国は大丈夫・・・

と考えるのは、当然至極のことと思う反面、「いい歳ぶっこいたオヤジが大勢集まって、小魚相手に大騒ぎなんて・・・。」などいうことが、ふと脳裏をよぎれば、

 もうこの国はおしまい・・・

などとも思ったり。さてどちらが正解なのか、そのご判断は読者諸兄にお任せすることにしよう。

 部隊撤収後は、恐ろしく悪路の奧の奧(途中に「あきらめないで、もう少し!」などという看板があるのには笑った。)にある「日帰り温泉施設」にて疲れを癒し、煮込んでも固くならないという不思議な肉を賞味して元気を回復。再び集合地点であった道の駅に戻った時には、すでに空は漆黒の闇に覆われている。遠く東京、大阪・・・各方面から参集したこのシニア部隊。たった一日を共に闘った仲間に過ぎぬとはいえ、まさに

 戦友の絆!!

は何よりも太く、断ちがたいもの。幾ら汲めども名残は尽きぬが、さすがに疲弊しきった老体には少しでも早い休息が必要であることは言うまでもなし。

 「それじゃ、皆さん、お元気で。またいつかご一緒に・・・。」赤いテールランプが三々五々に散っていく中、その光を一筋の流れ星にでもたとえようかと思いつつ、小生もまた、暗い夜に向けて・・・ハンドルを切れば、本当の流れ星が漆黒の夜空を駆け抜けていった。

2009/07/05

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